2020年08月26日
小原に永眠する わが愛しの杉田久女
地元紙の矢作新報に月イチで連載しているコラム「ぶんかの定点観測#115」より、昭和初期に日本を代表する女性俳句の先駆者として活躍した杉田久女を紹介。
杉田久女は鹿児島に生まれる。旧小原村出身で旧制小倉中学図画教諭を務める杉田宇内と結婚し小倉に転居。小原の杉田家でも暮らし、小原に所縁の俳句を詠んている。写真は旧杉田家の長屋門。邸内には長女の石昌子さんが建立した句碑が建ち、久女と宇内は邸内の墓所に永眠。久女の聖地として全国各地から訪れる人も多い。
杉田久女の名は、小原地区の松名町に句碑があるため知っていたが、それ以上でもそれ以下でもなかった。
ある夏、そんな驕った認識が一変する事件が起こった。いけばな歳時記で蓮や睡蓮など水物の句を調べたが、みな類型的で面白くない。諦めかけたとき、衝撃的な句が目に飛び込んできた。「睡蓮や鬢に手あてて水鏡」。詠んだのは杉田久女。突如、艶やかな情景が立ち上がってきたからである。
杉田久女とは何者なのか。付け焼刃を承知で調べてみてまた目から鱗。師の高浜虚子はもちろんだが、松本清張、吉屋信子、田辺聖子らが競って小説に描き、渡辺美佐子、大地喜和子、樹木希林、高橋惠子などなど錚々たる女優たちが舞台やテレビドラマで久女を演じていたからである。
問題はここからである。杉田久女は、昭和初期に活躍した日本を代表する女性俳句の先駆者として知られているが、なぜか師の高浜虚子から敵視され破門されたというのである。「常軌を逸して虚子を慕い、周囲を攻撃し、遂には心を病んで破滅した奇人」という久女伝説である。タメにならない流言飛語だが、久女の心をどれほど傷つけたか想像に難くない。
経緯は省くが動いたのは作家の田辺聖子。久女伝説の虚構を正し、俳人としての真価、人間としての実像を描いた評伝小説『花衣ぬぐやまつわる…わが愛しの杉田久女』を上梓。田辺聖子が描いた久女の半生は、1988年3月、NHKドラマスペシャル「台所の聖女」として樹木希林が演じ、久女の復権に向けた流れが一気に加速したのは周知のとおりである。
今年も「おばら杉田久女俳句大会」の時期が近づいてきた。残念ながら現下のコロナ禍で募集句のみとのことだが、せっかくのチャンスである。みんなでNHKプレミアムカフェに「台所の聖女」再放送のリクエストをしたらどうか。私のお願いである。宜しく。
Posted by かとうさとる at 11:07 | Comments(0) | とよたの文化