2013年12月11日

衝撃の松田隆作作品集〈いけばな組曲〉






利休の茶

30年近く前になるが
当時、国立東京博物館の工芸課長をしていた
陶磁研究家の林屋晴三氏を文化講演会の講師に招いたことがある

いまでもそのシーンを想い出すが
利休の茶について
東京博物館の記録映画の監修のため
山崎の「待庵」(国宝妙喜庵)で利休の茶を再現
利休の茶を目の当たりにした林屋晴三は
「利休の茶は利休一代で終わっていた」と
その衝撃を語った

利休が大成した茶の湯の燈明は
茶道として今に伝えられているが
利休の「茶」とは似て非なるものというもので
会場を埋めた茶道関係者が一瞬凍りついたのを
昨日のことのように覚えている


いけばなから
日本の美術の到達点を問う




    松田隆作作品集〈いけばな組曲〉
    規格:B4変形(352×256㎜)/かがり上製本特染めクロス装函入
    総頁256頁(カラ―216頁)/和英併記/オリジナルドローイング付


松田隆作さんの作品集を語るのに
利休の茶を持ち出したのは
「現代いけばもまた松田隆作一代で終わった」
と、しか言葉が見つからなかったからである













本書は「花」に身命を賭した花人松田隆作が
国内外で発表した仕事の全容を明らかにするとともに
いけばなから日本の美術の到達点を問うもので
その美しさは他に比類がない

松田隆作作品集
[特別寄稿]
中西進(文学博士、文化勲章受賞者)
[文]
三頭谷鷹史(美術評論家)
南嶌宏(女子美術大学教授)
[定価]
28,000円+税
[発行]
求龍堂
〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町3-23文芸春秋1階
 
松田隆作さんに申し込むと
サイン入りの作品集がお求めできます

〒162-0814 東京都新宿区小川町6-27-106
Tel&Fax03-3266-1986
e-mail:ryuusaku-m93@hotmail.com



   
  


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2012年01月06日

愛するいけ花|谷口雅邦作品集












いけばなに解放区があった時代



時代は気まぐれで不思議な悪戯をすることがある
いま、いけばなは若い人がいないと言うが
60年代後半から80年代半ばにかけて
若い人たちの熱気で満ち満ちていた場所があった

流派もキャリアも問わないいけばな解放区で
現代のいけばなを代表するカリスマたちは
みんなここから世界に飛び立っていった



民俗を源流とする
いけばなの到達点を標した
谷口雅邦作品集






谷口雅邦作品集|装丁


そんな解放区のカリスマを代表する谷口雅邦さんが
「愛するいけ花」谷口雅邦作品集を出版した





谷口雅邦作品集|Part1 習作


谷口さんのプロフィールを簡単に記すと

谷口さんは1944年青森県に生れる
1970年に龍生派家元吉村華泉に師事

東北の風土を連想させる独自の世界で
数多くの国際展に招聘されるなど
今に生きる日本美術の求道者の一人として活躍





谷口雅邦作品集|Part2 個展


作品集の構成

本書は現代のいけばなに独自の世界を拓いた
谷口さんの仕事の全容を標したもので
Part1 習作
Part2 個展
Part3 合同展
Part4 イベント作品
Part5 舞台美術
Part6 ディスプレイ、インテリア
Part7 雑誌企画のための作品
の7章で構成






谷口雅邦作品集|Part3 合同展


識者が推奨する谷口雅邦の世界

私の下手な解説では誤解を招きかねないため
作品集に批評文を寄せた識者の名をもって代えたい

■中村英樹(美術評論家)「見えない奥の気配を活ける」
■早坂暁(作家)「風土を活けるアーティスト」
■日沼禎子(女子美術大学准教授)「-幸福への進化探る挑戦」
■三頭谷鷹史(美術評論家)「幸福への進化」
■南嶌宏(美術評論家)「零度の創造-谷口雅邦」

少しでもアートに関心のある方であれば
このラインアップを見ただけで理解いただけるはず





谷口雅邦作品集|Part4 イベント作品




谷口雅邦作品集|Part5 舞台美術




谷口雅邦作品集|Part6 ディスプレイ、インテリア




谷口雅邦作品集|Part7 雑誌企画のための作品



愛するいけ花
谷口雅邦作品集の入手方法


■発行⇒㈱美術出版社
■規格⇒A4版160ページ
■定価⇒本体価格3,500円+税
■購入⇒全国書店で注文可
  


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2009年04月01日

お薦め選書4 北條明直著作集









在りし日の北條明直先生


北條明直(ほうじょうあきなお)


大正12年(1923)山梨県大月市に生まれる
国学院大学で折口信夫に学ぶ

昭和22年(1947)文部省芸術課に勤務し
芸術祭の企画運営を担当

昭和25年(1950)いけばな界では
はじめての文部大臣招待日本華道展(日花展)の担当官として
いけばなにかかわる

文部省を離れたのち
跡見学園女子大学、都留文科大学で美学、美術史を教える

いけばなをはじめ、日本伝統芸術の研究に携わり
私財を投じて「いけばな造形大学」を経営
また映画「姫路城」(文部大臣賞)
「歌舞伎の魅力」(国際映画コンクール銀賞)など
伝統芸術を題材にした数多くの作品を手がけるほか
日本アマチュア演劇連盟会長としても活躍

平成16年(2004)大月市の自宅で逝去(享年81歳)



戦後の混乱期から
いけばなの世界、演劇の世界、映像の世界を走りつづけた
北條先生のプロフィールをざっと記したが
訃報を聞いたときは
新たないけばなの道を拓いた
雑誌「いけばな芸術」(1949-1953)の先学
山根有三(美術史家)、重森弘淹(写真評論家)
工藤昌伸(いけばな研究家)の訃報に接したときとは別の意味で
いいようのない寂寥感に襲われた






北條明直著作集全3巻
(至文堂平成9年発行)


①いけばなとは何か
②いけばな人物史
③花の美学

北條明直著作集は
いけばなの道に賭した北條先生渾身の学術書で

《いけばなは、自然の文脈から草木花を切り離して、
人間の文化の文脈に移しかえる作業です。

そこに違った文脈と文脈との背馳、葛藤が起こるのは当然で、
それをいかに克服するかが、いけばな芸術の問題点となります。

そこでは、他の芸術以上に、
自然に対する認識とその洞察力が要求されるでしょう。

殊に現代社会における人間と自然との関係は、
かっての自然順応の時代とは違って、
一層私たちに先鋭的問題を課しているのです。

いけばなは、たかだか造形作業の一つのように見えますが、
実は自然と人間との根源的な問題に、たえず直面することによって、
私たちに作る上での思考をうながすところのものなのです。》


と記した末尾の「あとがきにかえて」は
「現代いけばなとは何か」という公案に対する
北條先生からの至高の贈り物で、座右の書としてお薦め



北條明直の思想の原点

北條先生の思想の原点を知る手がかりの一つが
「いけばなは自然への洞察の深さを求めるもの」と題して
北條先生からいただいた玉稿で
その序文に、次のように記している

《私の家は、鎌倉時代から、北條氏の末裔としていま私が住む、
山梨県大月市岩賑町岩殿にあって、
山梨、神奈川、静岡にまたがる広大な修験の統括を行ってきました。

明治5年、維新政府のもと、修験は廃絶され、我が家も没落します。

私はいま郷里に戻り、かっての修験の霊場岩殿山に日夜接し、
家にある中世、近世の古文書や仏具にふれる中で、
遠い密教の流れと日本の山岳信仰などにしきりと、
思いを馳せるのです。

修験道は縄文期に生まれた日本人の森(山)の思想が
密教や道教などと習合し、そこに神秘的な行為をくりひろげますが、
そこには日本人の自然に対する根源的なコスモロジーが
脈々と伝えられています。》

下記の原稿は
著作集の執筆時期と同じ頃
北條先生から
「いけばなの途を考える」と題していただいた玉稿の抜粋で
著作集③「いけばなとは何か」の推敲のあとが伺える
貴重な遺稿







  


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2009年03月28日

お薦め選書3 日本いけばな文化史 








  在りし日の工藤昌伸先生
  (小原流研美会機関誌「研美」No84特集追悼工藤昌伸より)


工藤昌伸(くどうまさのぶ)

著者の工藤昌伸先生は
1924年東京赤坂にて華道家・工藤光洲の長男として生まれる。
上海の東亜同文書院を経て京都大学入学。

1951年重森弘淹、勅使河原宏、下田尚利と「新世代集団」を結成。
新しいいけばなの創造を模索。

当初は「平和のための美術展」、「アンデパンダン展」などで
社会性の強い作品を発表。
作家として前衛いけばな史に大きな足跡を記したが、
1955年財団法人小原流事務局長に就任した頃を境に、
いけばなの体系的研究に着手。

以来博覧強記の研究者として数多くの書籍の監修をするとともに、
同時代性の視点にたったいけばな運動を主導。
いけばなに伝統と現代の融合という画期的な変革をもたらした。
全いけばな人の精神的支柱として慕われていたが、
96年病魔に勝てず逝去。享年72歳。
(日本いけばな文化研究所主宰)

ざっと工藤先生のプロフィールを記したが、
私が今日までいけばなに熱くなれたのも、
工藤先生の出会いと薫陶のおかげで、
どんな言葉をもってしても語り尽くせない。

初めての作品集の話をしたとき一番喜んでくれたのが工藤先生で、
「空間をまきこんだ確かな自然と植物の造形」のタイトルで
玉稿を贈っていただいた。

多分私と同時代にいけばなに没頭した人は
みんな同じような思いを抱いているのではないか。

お薦め選書1で「いけばなは絶滅の危機」と記したが、
私は、工藤先生に帰ること、
工藤先生の生きた時代を検証することで、
扉が開くと思っている。
恩返しをしなくては。





日本いけばな文化史

本書は全5巻からなり、
同時代性いけばなの流れと展開を
初めて「史」として検証するとともに、
花を愛でるという世界共通の行為が、
なぜ日本において「いけばな」という表現をもつに至ったのか。

いけばなを最もよく知る
博覧強記のいけばな研究者工藤昌伸が解き明かした、
現代のいけばな研究の集大成で、必携。

資料編、年表も最新の研究成果が網羅され、
特にいけばなの実作者の座右の書としてお薦め。


第1巻 いけばなの成立と発展
第2巻 江戸文化といけばなの展開
第3巻 近代いけばなの確立
第4巻 前衛いけばなと戦後文化
第5巻 いけばなと現代
発行 同朋舎出版
  


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2009年03月08日

お薦め選書2 図説いけばな体系







図説いけばな体系(全6巻)

本書は、図説茶道体系(全7巻)に続いて
角川書店が発行したもので

監修:川端康成、谷川徹三、細川護貞 
編集参与:重森三玲、西堀一三、湯川制 
編集委員:玉上琢彌、林屋辰三郎、山根有三
という斯界の最高の学識者が参画した
いけばなの学術書の決定版。

内容は
第1巻 いけばなの美学(井島勉編)
昭和46年4月30日初版
第2巻 いけばなの文化史Ⅰ(玉上琢彌編)
昭和46年6月30日初版
第3巻 いけばなの文化史Ⅱ(林屋辰三郎編)
昭和45年11月20日初版
第4巻 現代のいけばな(河北倫明編)
昭和46年9月30日初版
第5巻 いけばな歳時記(山根有三編)
昭和47年8月10日初版
第6巻 いけばなの伝書(岡田幸三編)
昭和47年2月10日初版
の全6巻。

いけばなを体系的に勉強したい人、
また日本文化の精神的源流とその流れを学びたい方の
座右の書としてお薦め。


いけばなの高揚した時代が遺したもの

バルブの時代に世界的美術品が日本に吸い寄せられたように、
より強い磁場にビジネスモデルが集中するのは世の常というが、
バルブがはじけた後、アンドリュー・ワイエスや
アンぜルム・キーファーのまとまったコレクションが
日本を離れたニュースを聞いたときは情けなかった。

出版界を同列に扱うのはお門違いだが、
奥付を見ると遺されたいけばな選書の大半が
ある時期に集中していることがわかる。

昭和40年代はじめから50年代のはじめにかけて、
ほぼこの10年間に集中している。

ビートルズの来日で沸いた時代、
日本で初めて全国組織の
(財)日本いけばな芸術協会が設立(昭和41年)された。

関東、関西の大流派が中心になったため
地方の流派が対抗する形で日本華道連盟を設立(昭和43年)。
いけばな界は空前のブームに沸いた。

デパートはいけばな展の誘致合戦を繰り広げ、
出版界はいけばなの書籍を競った。

バルブの時代、日本は消費しただけで何も残さなかったが、
いけばなは書籍という文化遺産を遺した。

角川の「いけばな体系」の他にも
主婦の友社の「図説いけばな文化史」「花材別いけばな芸術全集」、
講談社や小学館からも同じような豪華本が相次いで発売された。
末期には現代いけばなの方向性を決定した
「いけばな批評」の創刊(昭和48年)というエポックもしるした。

ちなみに私は給料より高い「本」を買ったことがあるが、
さすがに立華図の豪華本だけは高すぎて手が出なかった。

余談に逸れたが、
昔ながらのお稽古からいけばなの道に入った私にとって、
いけばなに学術書が存在すること自体信じられない驚きだった。
多分アラカン世代以上の人は同じような体験をしたのではないか。


残念ながら
これらの選書はほとんどが絶版
先に紹介した選書1と
角川の「いけばな体系」を
古書店で見つけた方は是非お薦め
  


Posted by かとうさとる at 01:22 | Comments(0) | いけばなお薦め選書

2009年03月05日

お薦め選書1 いけばな・花の伝統と文化













「いけばな・花の伝統と文化」
(美術出版社)



本書は
昭和41年(1966)に美術出版社から出版されたもので
著者は日本民藝協会会長で美術史家の水尾比呂志

監修は美術史家の山根有三
内容は高度成長時代の中で見失われた日本文化の精神的源流を
花と日本人の関わりの中で問い直そうというもので
本の装丁・内容ともに格調が高く心が洗われる

特に序章は映像のナレーションを聞くように心地がよく
次代に伝えたい日本文化の選書としてもお薦め


いけばなの黄金時代を
支えた出版界


もし、私が100年後に復活して「いけばな」を語るとしたら
いけばなの黎明期から近代までを「史」としてざっと概観したあと
「いけばなは20世紀末に
日本発の場の芸術として世界に花ひらいた」と時間の大半を割く
そして「21世紀の初頭に絶滅した」と結ぶ姿が目に浮かぶ

勅使河原蒼風・宏がいて、小原豊雲がいて、中川幸夫がいて
半田唄子がいて、工藤昌伸がいて、北條明直がいて
重森弘淹がいて、吉村華泉・隆、工藤和彦、下田尚利、
千羽理芳、大坪光泉、日向洋一、坂田純、長井理一、
谷口雅邦、松田隆作など
俊英が鎬を削った「いけばなの黄金時代」を
見てきたように語るはずだ

もしかしたら口直しに假屋崎省吾を肴にするかも知れない
川瀬敏郎がいて、栗崎昇もいた
浜の真砂は尽きるとも
「いけばなの黄金時代」の種は尽きることがない

こうした「いけばなの黄金時代」を支えたのは出版界で
主婦の友、家庭画報、婦人画報が華やかさを競い
角川書店、講談社、小学館、美術出版社、求龍堂
八坂書房、京都書院などが学術を支えた


いけばなを絶滅した世代と
言われないために


「いけばなの黄金時代」はそんなに遠い昔のできごとではない
振り向けば見えるし、肉声も聞くことができる

私たちの役割は「いけばなを絶滅した世代」と
後世の史家に後ろ指をさされないように
「今」を走り抜けること。形式を伝承することではなく
民俗のたぎる志を次代に引き継ぐこと
この二つ以外にない
真の伝統とはそういうものだと思う  


Posted by かとうさとる at 01:39 | Comments(1) | いけばなお薦め選書