いま 鈴木正三に学ぶ

かとうさとる

2009年02月02日 05:12



江戸時代初期に活躍した豊田市出身の仏教思想家、鈴木正三の出発点となった恩真寺の全景
毎年6月第4日曜日に全国各地の徳を慕う人や研究者が参集して「正三忌」が開かれている。


世界で初めて職業倫理を説いた鈴木正三

バルブの崩壊以降、職業倫理を説いた社説を幾度となく目を通したが、ほとんどがドイツの社会経済学者のマックス・ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を引きあいに出している。稀に石門心学の開祖石田梅岩を取り上げた社説もあったが、中日新聞の「中日春秋」を除いて、日本の近代思想史で一番重要な鈴木正三の名前が出てこない。

私は、鈴木正三研究会の設立や正三ゆかりの天草との交流、舞台化やアニメ化、合唱ミュージカルの制作に関わったため、身贔屓にとられるかも知れないが、亡くなった作家の山本七平は「正三は日本の近代化に最も大きな影響を与えた思想家であり、その点で日本の近代化による世界への影響を通じて、世界に最も大きな影響を与えた日本人の一人ということができる」と述べている。また講演会に招かれた童門冬二は「正三は士農工商という縦の階級を横(平等)にしてその意味と役割を説いた初めての人」と結んだ。詳しくは失念してしまったが司馬遼太郎は、NHKの特集で日本の近代化に影響を与えた10人を選び、正三をとりあげるなど、鈴木正三の研究と再評価は国際的な広がりをみせ現在に至っている。

その鈴木正三が開基したのが市内山中町の石平山恩真寺で、境内には正三の墓のほか、3代将軍徳川家光の遺財で鋳造した梵鐘、正三が修行した座禅石や滝の遺構が残されている。


恩真寺の参道の登り口に聳えている正三が植えたと伝えられる「正三杉」


社説が鈴木正三を見落とした理由

鈴木正三は、思想、宗教、文芸とその業績が多岐にわたっているため、長い間、正三の全体像は禅の鈴木大拙やインド哲学の中村元博士など著名な宗教家や研究者など専門家の領域で、「しょうさん」と読める人は稀という状態が続いていた。各紙の社説が正三の職業倫理に学んだ石門心学の石田梅岩を日本の職業倫理(資本主義)の端緒とするのはこのためで、こうした情況を憂いた高橋秀豪さんや鈴木茂夫さん、正三の生まれた地元の則定の有志が中心になって1975年、旧足助町で鈴木正三顕彰会を設立。正三研究はようやく端緒についた。

1975年:鈴木正三顕彰会設立
1983年:豊田市鈴木正三顕彰会設立
1995年:鈴木正三の再評価に向けたプロジェクト実施
1997年:鈴木正三研究会が発足し、毎年研究収録を発行
2005年:鈴木正三没後350年プロジェクト実施
2006年:鈴木正三全集(上巻)発刊
2007年:鈴木正三全集(下巻)発刊

鈴木正三研究は「鈴木正三全集」として完結したが、拓殖大学客員教授の神谷満雄先生の深い学識と徳が結実したもので、私は事務局の一員として神谷先生の薫陶を受けた幸運に感謝している。なお、小稿で「職業倫理」という言葉を使ったが、正三七部の書の『万民徳用』は、「生きるとはなにか」を「仏業即世法」として説いたもので、いまこそ、働くことの意義を通して人間の尊厳を唱導した鈴木正三に学ぶべきではないか。


鈴木正三の再評価に向けたシンポジウム(1995年)のチラシ。坐像は正三の生地則定の
心月院に伝わる正三像。眼を見開き、拳を握っているのは正三が唱えた仁王禅を現わしている。


鈴木正三の主な書籍の入手方法

(専門書)
鈴木正三全集上下巻|豊田市郷土資料館☎0565-32-6561
鈴木正三研究集録|鈴木正三顕彰会☎0565-63-2055(柴田)
鈴木正三七部の書復刻版|豊田市文化振興財団☎0565-31-8804
(普及版)
PHP文庫 神谷満雄著「鈴木正三」 定価762円(税別)


このほか、鈴木正三の研究並びに顕彰活動について
私(かとう)のこのブログにアクセスいただければ情報提供いたします。







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