2016年10月19日

おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ







ロングランのあいちトリエンナーレも
気がつけば今週末で閉幕


 とかく現代美術というと、難解なイメージがつきまとうのか「なんだかよくわからん」と、敬遠している人も多いのではないか。

 下の日本女性新聞の記事は、地元に居ながら敬して遠ざけている人や、県外の人にもわかりやすく書いたつもりだが…果たしてどうか。

 そんな訳で、今回は少し長くなるがまだ間に合うため、おさらいを兼ねて記事を再構成した。



おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ


  日本女性新聞は昭和25年「中央婦人新聞」として創刊
  昭和34年朝日新聞東京本社と販売提携(現在は解消)を機に
  日本女性新聞に改題。脚本家の早坂暁など異才の編集長を輩出。
  以来、いけばな界唯一の全国紙として親しまれている。

  美術評論家三頭谷鷹史さんの「前衛いけばなの時代」は
  女性新聞に連載されたもので現在は「女たちのいけばな」を連載
  取材のため一時休んでいたが戦後編で再開
  伝説の女流作家半田唄子の登場で目が離さなくなった。



「あいち」のスタートは
ポスト愛知万博


 私の地元愛知県で開催されている「あいちトリエンナーレ」が面白くなってきた。

 「あいち」は2010年、ポスト愛知万博を担ってスタート。最先端の現代美術をはじめ、ダンスやオペラを上演する舞台芸術や映像プログラムなど、多様な世界のアートの現在を一堂に会して紹介。今回も38の国と地域から119組のアーティストが参加。

 会場も初回の名古屋市に加えて前回から岡崎市、今回は豊橋市も加わり、「虹のキャラバンサライ/創造する人間の旅」をテーマに、天下取りの舞台となった尾張と三河をアートでキャラバンする趣向だ。

 ちなみに、お金をかければいいというものでもないが、中日新聞によると、事業費は約13億6000万円、瀬戸内国際芸術祭が約10億円、横浜トリエンナーレが約9億3000万円、越後妻有アートトリエンナーレが約6億2000万円というから、「あいち」の力の入れようと規模が理解いただけるのではないか。

「あいち」の反撃がはじまった

 そんな無敵?の「あいち」にも泣き所がある。残念ながら「瀬戸内」「横浜」「越後妻有」に比べて知名度が今一つというのが大方の見方ではないか。

 内向きでプレゼン下手という県民性もあるが、一言で言えば有名なアーティストの顔見世興行で、「あいち」の顔が見えないという本質が見透かされていたからではないか。


おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ


  あいちトリエンナーレの最大のライバル瀬戸内国際芸術祭のパンフ。
  見どころ、アクセスなどツーリストの目線で編集され
  アートに関心のない人でもこのパンフ一つで
  アートの島々を巡ることができる優れもの。
  
  残念ながら「あいち」のパンフはイメージ先行で不親切
  「あいち」は紙媒体を無駄と思っているのではないか。
  一事が万事でマネージメントが下手。




おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ


朝日新聞の「ひと」で紹介された港千尋(8月8日)


 新たに芸術監督に就任した港千尋が最初に問われたのもこの問題で、朝日新聞によると「(陶芸が進んだ土地柄について)技芸の場所であることは確か。ただ技芸を紹介するためのトリエンナーレではない。現代美術の最先端を見せるのが最大の使命。その上で愛知独特の材料や風景を新たな表現で主張する作家が入ってきてもおかしくない」と語ったそうだが、名古屋、岡崎、豊橋の3会場を巡った感想を一言で言えば、この港千尋の言葉をキーワードにすると分かりやすい。

 地味系だが、アーティストの背景にある土地の文化・歴史を考えさせる作家が多く、愛知という風土への回答というよりも挑戦状をたたきつけられたようなもので、芸術監督もこのぐらい戦ってくれると気持ちがいい。


もう「あいち」らしさがないとは
言わせない

 
 刺客となったのは地元愛知の味岡伸太郎と柴田眞理子の2人。

 土の変化と美しさに魅かれて土を描き続けるデザイナーの 味岡伸太郎(豊橋)は、県境を豊橋から西に回り、伊勢湾を望む木曽崎まで1500㌔の行程から70カ所の土を三層分採集し、会場で採集順に展示したが単なる標本展示ではない。三河の変化に富む赤系の土から肥沃な尾張の土が見事なグラデーションとなって連続。(写真下)

 

おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ


 余談に逸れるが味岡はいけばなにも造詣が深く、作品集「花頌抄」は2006年3月から翌年2月までの⒈年間、採集した草花を活け続けた記録で、いけばなは私たちが考えているよりもはるかに広くて深い。

 一方、陶芸家としてただ1人ノミネートされた瀬戸の柴田眞理子は、岡崎会場の旧石原邸の納屋に、古い転写紙で小鳥や花模様を絵付けした新感覚の陶を持ち込んだ。(写真下)



おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ


 2人に共通するのは風土への深い眼差しと洞察力で、もう「あいち」らしさがないとは言わせない。

 白眉は岐阜市出身の大巻伸嗣。愛知県美術館の床一面を無数の花や鳥の模様で彩った大巻のインスタレーションは、美の聖堂に足を踏み入れたような衝撃で言葉を奪った。(写真下)



おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ


おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ

10月12日発行 朝日新聞より転載


 今回、大巻は空気の流れによって巨大な布が舞う作品を栄会場で。高さ7㍍、直径最大4㍍の巨大な花瓶のオブジェを豊橋会場で公開したほか、「あいち」のシンボルカー、プリウスと会場間を無料で運行する人力の三輪自転車「ベロタクシー」のラッピングをデザインするなど八面六臂の大活躍で話題を独占。

 札幌を拠点に活動する端聡は、薄暗い旧明治屋栄ビルの一室でゾクゾクするようなインスタレーションを公開。強力な光源に落ちた水滴は一瞬にして水蒸気となり、やがてまた水滴となって循環する。美には魔物が棲むというが端聡のインスタレーションは、悪魔の儀式を目の当たりにとたような衝撃で足が竦んだ。(写真下)



おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ


 このほか広島や福島などで、被爆した樹木の切り株に刻まれた「記憶」をフロッタージュした岡部昌生など、「あいち」のアーティストが選り取り見取り。


「あいち」が一度で二度美味しい理由

 最期に地域会場を簡単に記すと、「五万石でも岡崎様はお城下まで船が着く」と詠われた徳川発祥の岡崎は旧石原邸がお薦め。

 大化以前「ほの国」と呼ばれた東三河の中心都市豊橋は、懐かしい市電に乗って巡るもよし、ぶらりぶらり歩いて巡るもよし。中でもお薦めは、農業用水の上に建てられた長さ800㍍に及ぶ板状建築物群「水上ビル」の作品群。(写真下)



おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ


 戦後のヤミ市から派生した商店街がルーツという猥雑性がアーティストを誘うのか、ブラジルのリオを拠点に活動するウララ・リマは100匹の小鳥を部屋に放し飼い。「生き物を作品にした」と、市民からクレームがあったというから「水上ビル」は何が起きてもおかしくない。



おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ


おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ


10月18日発行 中日新聞より転載

  「水上ビルは何が起きてもおかしくない」と書いたが
  その後、約20羽が死んだり逃げたりして物議をかもした挙句
  今度は「種の保存法」で販売や譲渡が禁止されている
  小鳥が含まれていることがわかって社会問題になるなど
  水上ビルは最後までやってくれる。



 ざっと開催中のあいちトリエンナーレを概観したが、グローバルな名古屋と三河の文脈に溶け込んだ二つの地域会場の対比は、一度で二度美味しい「あいち」の魅力の一つ。この機会に、アートを旅の宿に尾張と三河を巡ってみてはいかがですか。


泣いても笑っても
今週がラストチャンス


穴場は写真の未来形をテーにした岡崎康生会場「シビコ」の
コラムプロジェクト。(写真下)



おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ


おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ


おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ


私的な感想で恐縮だが、空間の有機的な支配力は現代いけばなのインスタレーションと重なり足が止まってしまった。



参考までに
こちらは33年前に発表した
私のインスタレーション↓




おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ


 のちにクリスト展に関わった私は、名古屋駅にクリストとジャンヌ・クロードを迎えた。

 名刺代わりに渡した私の作品集を見ていたクリストが、突然「かとうの作品を見たいから案内せよ」とリクエスト。「もう消滅して作品はない」と私が答えると、「オー、クレージー」とジャンヌ・クロード。

 クリストのアテンドとして同席していた水戸芸術館の学芸員が「クリストが日本人でククレージーといったのはかとうさんが初めて」と目を丸くしていたが、現代いけばなは蜃気楼のようなもので証明するものがないのが残念。 


同じカテゴリー(トリエンナーレ)の記事画像
あいちトリエンナーレ豊橋会場は電車が便利
差別化への挑戦がはじまったあいちトリエンナーレ
アートの祭典あいちトリエンナーレ間もなく開幕
味岡伸太郎の「花頌抄」は平成の花伝書
向井山朋子+ジャン・カルマンに言葉は不要
朝日プラス・シ―があいちトリエンナーレを特集
同じカテゴリー(トリエンナーレ)の記事
 あいちトリエンナーレ豊橋会場は電車が便利 (2016-09-14 13:02)
 差別化への挑戦がはじまったあいちトリエンナーレ (2016-09-03 07:39)
 アートの祭典あいちトリエンナーレ間もなく開幕 (2016-08-09 23:14)
 味岡伸太郎の「花頌抄」は平成の花伝書 (2016-05-27 21:13)
 向井山朋子+ジャン・カルマンに言葉は不要 (2013-09-07 14:27)
 朝日プラス・シ―があいちトリエンナーレを特集 (2013-08-25 23:19)

Posted by かとうさとる at 16:23 | Comments(0) | トリエンナーレ
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。
削除
おさらい まだ間に合う!あいちトリエンナーレ
    コメント(0)