2008年11月02日

映画とビデオインスタレーションの境界










挙母劇場と昭和劇場とアート座の
三座が支えた挙母の大衆文化





映画とビデオインスタレーションの境界

東映系の時代劇でいつも満員だった挙母劇場


戦後から昭和30年代半ばまで映画産業は隆盛を極めた。
才能が時代を作るのか、時代が才能を作るのか知らないが、
溝口健二がいて、黒澤明がいて、小津安二郎がいて、
成瀬巳喜男がいた。木下恵介もいた。

毎週のように新作が上映された。
レコードにA面とB面があるように映画は二本立で、
中には三本立てというお得な映画もあった。

ニュースも映画館で観た。
私が生まれ生んでいる豊田市でも
挙母劇場、昭和劇場、アート座の三館がしのぎを削り、
いつも満員だった。学校の芸術鑑賞会も映画だった。



映画とビデオインスタレーションの境界

なぜか映画鑑賞会はいつも昭和劇場だった。
規則にうるさいオジサンがいて私は叱られた記憶しかない。



挙母劇場と昭和劇場は芝居小屋から映画館になったため、
座席は畳敷きで花道もあった。
当然のように映画は畳の上で座って観るものと思っていた。

雨の日は畳の湿気とアンモニア臭で
なんとも複雑な臭気が充満していたが、
花道で立ち見の大人の足元をかき分けて、
いつも最前列に割り込んだ。

もう一つのアート座は、
市内初の全館イス席のハイカラな映画専門館で、
初めて従兄と近所の叔父さんに連れていってもらったときは、
外国に行ったような気がした。

内容は覚えていないが「やっぱりゲーリークーパーはいい」とか、
「グレースケリーは一番綺麗だ」と話していたのを覚えているから、
観たのは「真昼の決闘」ではないか。


挙母の下町から
映画館が消えた



昭和30年代後半、
豊田市はマイカー時代の到来で人口が急速に増え、
学校は増築に増築を重ねたが、それでも追い付かなかった。
娯楽の中心はテレビがとって代わり、
映画館はニシンの消えた番屋のようになった。

記憶に間違いがなければ昭和劇場が壊され、
次いで挙母劇場が壊された。
アート座は進出したスーパー長崎屋の7階でリニューアルしたが、
客足は日ごとに途絶え、まちから映画館が消えた。

あれから半世紀近い時間が流れた。
映画はシネマ・コンプレックス、シネコンという
新たなビジネスモデルとなって帰ってきた。

今年のイチ押しは
カナダのモントリオール映画祭でグランプリをとった
「おくりびと」で決まりという声が高い。
物語の内容は省くが、
庄内平野と名峰月山が織りなす四季と健気に生きる人々。
久石譲の美しい旋律の音楽が重なり、
心の中の澱が洗い流されていくようで、流れる涙も気持ちがいい。

観たのは隣町(三好町)のシネコンで、
市内の上映館を探したがない。
思わず「嘘だ」と叫んでしまった。

どんなに都市化しても
シネコンのない中心市街地は住む人のいない家、
食べる人のない料理と同じで味気ないことこの上ない。
これからは努めて声を大にしていきたいと思う。



映画とビデオインスタレーションの境界

昭和26年10月にオープンしたアート座の全景



ビデオインスタレーションの
アイデンティティを問う



最後に、似て非なるもの(ジャンルを異にする意)かも知れないが、ビデオインスタレーションについて触れたいと思う。

私が美術展で初めて映像作品に接したのは15年ほど前、
愛知県美術館と名古屋市美術館が共同企画した
「還流-日韓現代美術展」だった。

偏りを承知でいえば、
同じころ水戸芸術館で開催された「作法の遊戯展」とともに、
「具体」からはじまった日本の現代美術が
ターニングポイントに達したことを記録した
画期的な美術展だったように思う。

その中に衝撃的ビデオインスタレーションがあった。
韓国の陸根丙(ユク・クンビョン)の作品で、
深い思考と想像力を喚起する映像力に新たな時代を予感した。

前述の言葉と矛盾するが陸根丙の映像を見ていて、
黒澤明の「野良犬」を思い出した。
拳銃を奪われた三船敏郎扮する若い刑事が、
血眼になって犯人を追うシーンで、
黒澤明は刑事の焦燥感を飢えた狼のような眼だけで描いた。

こんなのはホンの一例で映画の斬新性は枚挙にいとまがない。
頭が古いかも知れないが、
そんな訳で、ビデオインスタレーションが
アートとしてもてはやされることが自分には理解できない。
美術館の中を暗幕で仕切った映画館もどきの見せ方は、
単なる実験映像にしかず、としか思えないからだ。

私がライフワークとしている現代いけばなは
未だアイデンティティー(脱いけばな)を厳しく問われているが、
ビデオインスタレーションも同じ問を避けて
通ることはできないのではないか。

旧い映画世代の私には
映画とビデオインスタレーションの境界が
グレーゾーンに見えて戸惑うばかりだ。




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Posted by かとうさとる at 14:43 | Comments(0) | アートの現在
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