2010年11月27日

劇場で観たかった藤沢周平の「山桜」


初めて藤沢作品を観たのは
わらび座の「山伏春秋記」だった


今は足も遠のいたが、私は「わらび座」のファンで、坂上田村麻呂ひきいる朝廷軍を相手に、蝦夷の尊厳を守るために戦ったアテルイを描いたミュージカル「アテルイ」の初演を観るため、秋田の「たざわこ芸術村」に足を運んだことも。藤沢作品を初めて観たのもわらび座の「山伏春秋記」だった。そんなこともあって、藤沢作品は私なりに足を運んできたつもりだったが、見落としていた映画を思い出してビデオ店に急いだ。


山桜を繰り返し観た





山桜の舞台は、江戸後期、北の小国海坂藩。
ここまでは「たそがれ清兵衛」「隠し剣」「武士の一分」
「蝉しぐれ」と同じだが、主人公は不幸な結婚生活に耐える野江。
この野江を田中麗奈が好演。






叔母の墓参りの帰り、山道に咲く山桜の美しさに心惹かれた野江は
その一枝を採ろうと手を伸ばすが思いのほか高く、手が届かない。






「手折ってしんぜよう」と一人の武士が声をかけた。
父の月命日の墓参りにきたという武士は、野江が嫁ぐ前、
縁談を申し込んできた手塚弥一郎。
例によって剣術の名手で凛々しい弥一郎を東山紀之が好演。






「今はお幸でごさろうな」と弥一郎
思わず「はい」とうなづいてしまう野江
「さようか。案じておったがそれはなにより」と立ち去る弥一郎。
山桜に導かれるようにして偶然出会った二人。


ストーリーの説明は野暮で省くが…

ストーリーの説明は野暮で省くが
「山桜」は二人が出会った山桜が、
次の年の春に咲くまでの一年の間におきた海坂藩の事件と、
野江と弥一郎の身の上におきた出来事を、人情味豊かに描いた。

抑制された最少のセリフが、こんなにも豊かな世界を生み出すとは。
寡黙であることが深い意味をもつことは全ての作品に通じることで、
全編を支配する品格は良質の墨彩画を観るよう。






「あなたは少し回り道をしてきただけ」と
母から励まされた野江が思い出の山桜を手折って
ただ一人、息子を待ち続ける弥一郎の母を訪ねるラスト。

「お聞きおよびでないかと思いますが…
浦井の娘で野江と申します」と野江

「あなたが そうですか…
あなたが、いつかこうしてこの家をたずねて見えるのではないかと、
心待ちにしておりました」と弥一郎の母

羽根を傷めた二羽の白鳥に希望という日差しが差し込んできたシーンで
不覚にも涙がとまらなくなってしまった。






右は弥一郎の母役の富司純子。
画像は写ってないが野江の母を演じた壇ふみ
いい生き方をした人間が醸し出す美しさで
山桜を支えた二人に拍手!






一青窈のエンディング曲が流れる中
悪徳の上役を斬った弥一郎は牢獄の中で差し込む光を見上げている。
重なるように参勤交代を終えた藩主の行列が…。

藩主が弥一郎に温情の沙汰をするであろうと暗示しているようで
観る側に深い余韻を残して物語は閉じた。

まだ観ていない人は是非お薦め!
なお画像は全てビデオ画面から接写。


  


Posted by かとうさとる at 05:52 | Comments(0) | らくがき帖