2010年09月17日

甦る自由の思想家 鈴木正三


鈴木正三と恩真寺

私は幸運にも仕事をとおして多くのことを学ぶことができた。
郷土の偉人で、江戸時代初期に活躍した日本の近代思想の扉をひらいた仏教思想家鈴木正三の顕彰・研究活動もその一つ。鈴木正三研究会の常任理事の末席を汚したが、当時(財)豊田市文化振興財団文化部長の職にあったため、普及活動のマネージメントを委ねられたもので、学ぶ機会を与えられた職に今も感謝している。




2004年3月 恩真寺に白梅を活ける

鈴木正三について、亡くなった作家の山本七平は
「正三は日本の近代化に最も大きな影響を与えた思想家であり、その点では、日本の近代化による世界への影響を通じて、世界に最も大きな影響を与えた日本人ということができる。」と述べている。

この鈴木正三が開いたのが市内山中町の恩真寺で、境内には正三の墓のほか見事な梅林があり、早春の恩真寺は全山匂う盛りだ。写真の白梅は作品集のため恩真寺に活けたもので、見届けた人はバイオリストの遠藤和さんと写真家の石田真典さんの二人。白梅は数時間で消滅した。


鈴木正三と仮名草子作家





恩真寺は、別冊太陽「禅」(昭和56年発行)で<勇猛果敢な仁王禅を唱えた恩真寺>として紹介されているが、発行当時、正三の全体像を知る人は地元はもとより、亡くなった哲学者で文化勲章を受章した中村元先生、仏教学者古田紹欽先生など研究者を除いて稀というのが実情だった。




恩真寺参道(石平山山中)に遺る正三座禅石

当時の事情について、正三研究の集大成となる
「鈴木正三全集(上下二巻)」を著した神谷満雄先生は
<鈴木正三は、従来、仮名草子作家として、文学史上にその名を残してきた。しかしこれは正三の残した仕事のごく一部の評価であって、正三に仮名草子作家という肩書をつけることは、正三像をミスリードする危険が大きい>と指摘。正三の行業が文学、宗教、「天草の乱」後の天草復興など多岐にわたっているため、全体像の把握が困難だったことを原因の一つに挙げた。


鈴木正三入門のお薦め選書





PHP文庫鈴木正三(定価762円)

本書は鈴木正三研究会長として鈴木正三研究を主導した神谷満雄先生が、いつでも、だれでも、気軽に読むことができる鈴木正三入門書として著したもので、お薦め。

著者の神谷満雄先生は東海銀行取締役調査部長。日本拓殖大学教授を経て、同大客員員教授、経済博士。鈴木正三研究が「鈴木正三全集(上下二巻)」として結実したのも神谷先生の博識と徳のなせるもので、神谷先生の薫陶を受けた幸運を感謝。





今日9月17日初版の新刊(鳥影社)
甦る自由の思想家鈴木正三(定価1800円)


鈴木正三研究で特筆すべきことは、正三が日本で初めて職業倫理を記述したことから、アナリストをはじめ研究者のジャンルが多岐にわたることで、本書の著者もその一人。

著者の森和朗氏は、NHKで「NC9(ニュースセンター9時)」、「ニュース展望」、「NHKジャーナル」など報道番組の制作を担当。国際局チーフディレクターを経て、日本大学芸術学部文芸学科講師。

著者の経歴が示すように、本書はアメリカのサブプライムローンに象徴されるヨーロッパ的自由と現実をリアルタイムで見届けてきた著者が、
真の自由とは何か、鈴木正三の思想をテキストに解き明かしたもので、
参考までに目次を記すと

はじめに いまなぜ正三なのか
第一章 正三とは何者なのか
第二章 正三にとって自由とは何であったのか
    Ⅰ日本人にとっての自由
    Ⅱ正三にとっての自由
第三章 自由をどのように実践するか
第四章 キリシタンとの対決
第五章 仁王禅と死への自由
第六章 正三の自由はなぜ忘れられたか
第七章 ヨーロッパ的自由を超えて 

と、時宣を得たもの。
展開も茶の間でNHKジャーナルを聴いているように簡潔で
正三を知っている人にはより深く
初めて知る人にはわかりやすく
神谷満雄先生のPHP文庫とセットでお薦め。

  


Posted by かとうさとる at 00:21 | Comments(0) | とよたの文化