2009年04月13日

彫刻家・石黒鏘二「その原点と対話展」






「起きてもとくにすることもない」1975年


貧しくても幸せな時代があった

名古屋造形大学ギャラリーで開催中の彫刻家・石黒鏘二「その原点と対話展」を見た。石黒先生は前名古屋造形大学学長という経歴を持ち出すまでもなく、当地を代表する文化人にして芸術家で、門外漢の解説は野暮。

石黒先生の仕事については新聞や雑誌などに発表されたコラム、エッセイ、評論、公共空間に設置された数々のモニュメントや、この春出版した「記憶のモニュメント石黒鏘二作品集」をとおして、私なりに理解しているつもりだったが、初めて知る世界で、少しでもわかったと思っていたことが恥ずかしい。

本展はタイトルに「その原点と対話展」とあるように、私たちが知る環境彫刻に移行する前の70年代初頭から80年代初頭の鉄溶接による彫刻を展観したもの。時系列でいえば現在の環境彫刻に移行する前、彫刻の森美術館大賞展やヘンリームア大賞展など国内外の彫刻コンクールで活躍していた時期で、清々しい眼差しが光背のように彫刻を包んでいるように見えた。

石黒先生が、なぜこの時期に、このようなタイトルで旧作を持ち出したのか。現代の彫刻が建築と一体化することで得たものと失ったものは何か、人間がものをつくるとは何か。若い学生たちに自らの作品を通して問いかけているように見えた。芸術が真善美を価値の規範においた貧しくても幸せな時代があった。二つの時代を生きた作家の勇気のある問いかけに思わず背筋が伸びた。

彫刻家・石黒鏘二「その原点と対話展」は17日(金)まで
名古屋造形大学D-1、D-2、D-3ギャラリー
問合せ☎0568-79-1219
  


Posted by かとうさとる at 01:18 | Comments(0) | アートの現在