2009年04月01日

お薦め選書4 北條明直著作集









在りし日の北條明直先生


北條明直(ほうじょうあきなお)


大正12年(1923)山梨県大月市に生まれる
国学院大学で折口信夫に学ぶ

昭和22年(1947)文部省芸術課に勤務し
芸術祭の企画運営を担当

昭和25年(1950)いけばな界では
はじめての文部大臣招待日本華道展(日花展)の担当官として
いけばなにかかわる

文部省を離れたのち
跡見学園女子大学、都留文科大学で美学、美術史を教える

いけばなをはじめ、日本伝統芸術の研究に携わり
私財を投じて「いけばな造形大学」を経営
また映画「姫路城」(文部大臣賞)
「歌舞伎の魅力」(国際映画コンクール銀賞)など
伝統芸術を題材にした数多くの作品を手がけるほか
日本アマチュア演劇連盟会長としても活躍

平成16年(2004)大月市の自宅で逝去(享年81歳)



戦後の混乱期から
いけばなの世界、演劇の世界、映像の世界を走りつづけた
北條先生のプロフィールをざっと記したが
訃報を聞いたときは
新たないけばなの道を拓いた
雑誌「いけばな芸術」(1949-1953)の先学
山根有三(美術史家)、重森弘淹(写真評論家)
工藤昌伸(いけばな研究家)の訃報に接したときとは別の意味で
いいようのない寂寥感に襲われた






北條明直著作集全3巻
(至文堂平成9年発行)


①いけばなとは何か
②いけばな人物史
③花の美学

北條明直著作集は
いけばなの道に賭した北條先生渾身の学術書で

《いけばなは、自然の文脈から草木花を切り離して、
人間の文化の文脈に移しかえる作業です。

そこに違った文脈と文脈との背馳、葛藤が起こるのは当然で、
それをいかに克服するかが、いけばな芸術の問題点となります。

そこでは、他の芸術以上に、
自然に対する認識とその洞察力が要求されるでしょう。

殊に現代社会における人間と自然との関係は、
かっての自然順応の時代とは違って、
一層私たちに先鋭的問題を課しているのです。

いけばなは、たかだか造形作業の一つのように見えますが、
実は自然と人間との根源的な問題に、たえず直面することによって、
私たちに作る上での思考をうながすところのものなのです。》


と記した末尾の「あとがきにかえて」は
「現代いけばなとは何か」という公案に対する
北條先生からの至高の贈り物で、座右の書としてお薦め



北條明直の思想の原点

北條先生の思想の原点を知る手がかりの一つが
「いけばなは自然への洞察の深さを求めるもの」と題して
北條先生からいただいた玉稿で
その序文に、次のように記している

《私の家は、鎌倉時代から、北條氏の末裔としていま私が住む、
山梨県大月市岩賑町岩殿にあって、
山梨、神奈川、静岡にまたがる広大な修験の統括を行ってきました。

明治5年、維新政府のもと、修験は廃絶され、我が家も没落します。

私はいま郷里に戻り、かっての修験の霊場岩殿山に日夜接し、
家にある中世、近世の古文書や仏具にふれる中で、
遠い密教の流れと日本の山岳信仰などにしきりと、
思いを馳せるのです。

修験道は縄文期に生まれた日本人の森(山)の思想が
密教や道教などと習合し、そこに神秘的な行為をくりひろげますが、
そこには日本人の自然に対する根源的なコスモロジーが
脈々と伝えられています。》

下記の原稿は
著作集の執筆時期と同じ頃
北條先生から
「いけばなの途を考える」と題していただいた玉稿の抜粋で
著作集③「いけばなとは何か」の推敲のあとが伺える
貴重な遺稿







  


Posted by かとうさとる at 02:32 | Comments(0) | いけばなお薦め選書