2009年02月10日

作品ライブラリー(16)灼熱の常滑と窯のある広場(2)



製材された生木の香りに包まれたINAX窯のある広場「倒焔式角窯」のインスタレーション


みんなの笑顔が走馬灯のように浮かんでくる

宮島達男の数あるデジタルカウンターの作品の中で最も印象に残っているものにアートの島として知られる直島の家プロジェクト「Sea of Time 98」、「時の海」と題した作品がある。この作品は、直島の木村地区の民家を改修して作品化したもので、宮島は地域の住民と協働して制作したそうだ。民家の空間を海に見立てた水の中に、集落の人が持ち寄ったデジタルカウンターが命を刻むように点滅していた。ホタルの光のように淡く 一つひとつに生命が宿っているようようで思わず手を合わせた。

悠久な宮島の「時の海」に比べるべくもないが人間の記憶の回路の劣化は早い。当時窯のある広場を担当していたのはINAXの鬼頭さんという総務部長で、いろいろと便宜を図っていただいたのを覚えているが、どのような経緯で事が進んだのか霞がかかったように思いだせない。今頃気がついても遅いが、縁もゆかりもない余所者の自分を気持ちよく受けて入れてくれた背景には、多くの人のサポートがあったことは想像に難くない。加藤龍子さんは言うまでもないが、まず吉川正道さんと千香子さんの顔が浮かぶ。次に鯉江良二さん、当時INAXのデザイン部長をしていた家坂ルリ子さんのご主人etc。みんなの笑顔が走馬灯のように浮かんでくる。

狩猟民族と農耕民族の違いを痛感

会期は昭和62年1月5日(月)~11日(日)と決まった。当時ディビット・ナッシュやアンディー・ゴールドワジーなどイギリスの作家に衝撃を受けていた私は、いけばなの独自性を求めて足助の山に足蹴となく通ったが、森林の臭気に圧倒されて収穫ゼロ。狩猟民族と農耕民族の違い、体力の違いを痛感させられた。そんなとき見つけたのが森林組合の製材された生木が放つ香りだった。一夜干しの魚が魚の旨味を増すように、製材は生木にとって死を意味するものではなく、新たな命の始まりと思った。

もう迷いはない

本格的に準備を始めたのは11月に入ってからで、まず窯の図面を引いて寸法を割り出した。条件は「安全性と壁面に触れないこと」という二点で、あとは自由とのことだった。もう迷いはない。同時進行でムシロフェンスの準備を進めた。問題は現場制作で、INAXが年末年始の休みに入ってしまうからだ。この難問は「鍵を預けるから責任をもって管理してください」という鬼頭さんの一言で決まった。

INAX窯のある広場について、(1)(2)に分けて、ざっと思いつくまま記したが、すべてが幸運の重なりで、自分は人の善意の上に生かされていたと改めて思う。最終日搬出が終わったあと、空を見上げると白い雪が降ってきた。「最後は雪が降るといい」と龍子さんと話していたが本当に雪が降ってくるとは思わなかった。このとき、群れて楽しんで、夢がヒカッて、ただ前しか見えなかった「私の花」の第一ステージの終りを予感した。(1)で「もう一度戻りたい場所がある」と見出しに記した理由である。



小原挿花現代花人列伝

小原挿花は小原流の機関誌で、特に70年代から80年代にかけて、流派を横断した斬新な編集方針で現代いけばなの動向に大きな影響を与えた。現代花人列伝はその小原流挿花がシリーズとして掲載したもので、流派を超えて有力な花人を取り上げるという、今では考えられない無謀な企画が話題をよんだ。前衛が時代をひらくというが、現代いけばなに小原挿花が果たした役割を私たちは忘れてはいけない。





1987年小原挿花9月号の現代花人列伝に掲載されたINAX窯のある広場の個展













  


Posted by かとうさとる at 21:43 | Comments(0) | 作品ライブラリー