2014年11月20日

濃尾参州記と松平郷と農村舞台




















司馬遼太郎の
「街道をゆく」シリーズの
最後の取材旅行となったのが
濃尾参州記




濃尾参州記と松平郷と農村舞台


  朝日文庫(定価:本体500円)


濃尾参州記の取材メモによると
司馬遼太郎が松平郷に足を踏み入れたのは
1996年1月2日~9日に行われた
濃尾参州記の2回目の取材旅行で
残念ながら松平郷の日時は
記されていない




濃尾参州記と松平郷と農村舞台


  久しぶりに高月院を訪れた司馬遼太郎(濃尾参州記より転載)


体調不良を押しての取材で
司馬遼太郎は2ヶ月後に急逝


幾度も小説の主人公に据えた
信長・秀吉・家康を生んだ
美濃・尾張・三河の地を最後に
「街道をゆく」シリーズが途絶えたのは
何か虫の知らせでもあったのかも




濃尾参州記と松平郷と農村舞台


  国指定松平郷史跡観光案内図


司馬遼太郎が
初めて高月院を訪れたのは
観光資源として史跡整備される前の松平郷で
そのときの印象を濃尾参州記に記している




濃尾参州記と松平郷と農村舞台


『私にとって三十年ちかい前の松平郷の印象は、
山も渓も家々も実に清らかだった。

家々は傾斜面に建っているため、
土台としての野面積みの石垣が組まれていた。

車がのぼってゆくと、路傍の一軒の家の石垣のはしに、
初老の当主らしい男が立っていて、登ってくる車を見つめていた。
中世の山三河の松平家の郎従が物見しているようで、
おかしかった。

尾根に近づくと、水流はまったくなくなった。
神社があり、そこが、六百年前、徳阿弥が逗留し、
その後、婿として家をさかんにした松平屋敷の跡らしかった。

その一段上が、尾根で、いわば山巓である。
そこに浄土宗高月院があり、
高い松の木の一幹があって、幹に枝がなく、
はるかな青空を掃くように梢にだけ枝葉が茂っていた。

山嶺の地面は明治の軍艦のように狭く、
まわりは谷で、谷のほかなにもなかった。
そのせいか高月院そのものに人格を感じた。
孤独な山僧に出会ったようだった。

ここに徳阿弥(松平親氏)ら松平家初期の数人の墓があり、
全てが清らかに保全されていた。

こんども、その松平郷をめざした。
「高月院は、いいですよ」
私は、編集部の村井重俊氏に、あらかじめ、
わがことのように自慢しておいた。

白壁の塀だけが、唯一の贅沢だった。
規模は小さく、建物もやさしくて、尼僧の庵のようでもあり、
いずれにしても私の脳裏にある
日本の諸風景のなかでの重要な一風景だった。』




濃尾参州記と松平郷と農村舞台

  高月院山門


濃尾参州記と松平郷と農村舞台

  松平東照宮


司馬遼太郎にとって
松平郷は「街道をゆく」心の原風景で
いかに松平郷の再訪を楽しみにしていたか
痛いほど伝わってくる




濃尾参州記と松平郷と農村舞台


  徳川の始祖の地として景観整備した土塀と史跡公園


その司馬遼太郎が見たのは
観光資源として整備された松平郷で
濃尾参州記の筆先が厳しくなるのは自明の理

当然のように地元は上から目線と反発
メディアも大きくとりあげるなど
歴史的景観の在り方を巡って
物議をかもしたが
体調に不安を抱えていた司馬遼太郎は
松平郷からこの国のゆくすえに
思いをはせていたのではないか

あれから刻も流れて
松平郷は国指定史跡となり
濃尾参州記のことは
ほとんど話題にもならない

私の地元への愛着は人一倍で
寝た子を起こすようなことをしたくないが
松平郷を訪れるたびに
司馬遼太郎の声が聞こえてくるようで
思わず空を見上げてしまう




司馬遼太郎に見てもらいたかった
六所神社の農村舞台




濃尾参州記と松平郷と農村舞台


濃尾参州記と松平郷と農村舞台


濃尾参州記と松平郷と農村舞台


六所神社下社の農村舞台は
高月院から北へ
直線距離にして3~4㎞ほど

もし、司馬遼太郎がこの舞台を見たら
どんなに癒されたか想像に難くない

私に言ってくれれば(笑い)
案内したのに残念



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Posted by かとうさとる at 03:55 | Comments(0) | 農村舞台
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